人が生きることに寄り添うアロマ 堀内 真弓
どんな活動をしていますか?
普段は千葉県で訪問看護の仕事をしています。
患者さんのお宅まで足を運んで、安心して家で暮らせるように、体調をみたり、必要な医療処置などをしています。
休みの日にはアロマセラピストとしても活動しています。
日本産アロマyuica認定スペシャリストの資格をとって、鹿行地域では初めてのyuica認定スクール・サロンを潮来市内にて営んでいます。
yuicaは飛騨高山の木々から抽出した精油を中心に扱っています。国産の材料というところにたいへんなこだわりをもっています。
またわざわざ樹木を切り倒しているわけではなく、間伐材を使用しているということで環境への配慮もなされているところです。
スクールではyuica認定のインタープリター講座や初心者向けのアドバイザー講座があります。初めてアロマに触れる方のためのアロマクラフト作りも人気です。そこでは国産アロマの世界について、高山から取り寄せた枝葉を準備し、見て、触れて、香って、感じてもらいながらお話をさせていただいています。
様々な形で、日常の中に香りによる癒しもたらしてくれるようなものを作る体験もできます。
例えば、自分の好みの香りで作るルームスプレーや、保湿のトリートメントオイル(米ぬかで出来たライスキャリアオイルがとってもいいんです)、バスボム、アロマストーン(石膏で出来たものにアロマオイルを垂らす)などです。
この頃は親御さんと一緒にお子様も来てくれるということがあって、こどもにも楽しんでもらえるように簡単で楽しい体験ができるよう工夫しています。
サロンではハンドマッサージなどの施術を行っています。
人それぞれの今の心身の状態に合った香りの提案もしています。お疲れの程度や、痛みや凝りなどから、何種類か提案させてもらい、その中からご自分で選んでもらいます。
何回か来ていただくと、前回はあまり好まなかったものがすごくいい香りに感じたり、その逆であることもあります。
アロマの体験にお越しになった方には、腸に優しいお菓子をお出しするようにしているのもこだわりの一つです。
豆腐ティラミスや甘酒プリン、豆腐のレアチーズケーキなど、材料に味噌などの発酵食品をふんだんに使ったものを中心に、体の中からもケアしてあげられたらという思いのもとに提供しています。
市内外問わずイベントにも出店しています。そのおかげもあり近隣の土地でアロマに関わられている方とのつながりが生まれ、刺激を受けながら活動しています。
はじめたきっかけはなんですか?
東日本大震災の際にボランティアとして被災地で活動したことがひとつの大きなきっかけです。
さかのぼって高校時代に阪神淡路大震災が起きて、その時も現地に向かったのですが何もできなかったという経験が長く記憶に残っていました。
その記憶は2011年3月11日の際にはとりわけ鮮明によみがえってきました。
4月から決まっていた転職先には数か月待ってもらって、被災地に向かうことを決意しました。
被災地での活動としては泥出しなどの体力を使う活動もしましたが、主にアロマを用いたハンドマッサージやケアを通して、避難所で過ごす人たちの気持ちを少しでもやわらげるというものでした。その活動を通して得たものはあまりに大きいものでした。
避難所は身を置くだけでもたいへんな緊張を強いられる場所です。ほとんどプライバシーがありません。だからこそ香りの力によって感覚をほどよく刺激して、その緊張を解きほぐしてあげることが大切になってきます。
ケアをした方から良い感触で受け止めてもらえることも多く、やりがいを感じながら活動していました。
ただ自分自身が、数か月後再びその時使ったアロマオイルの香りを嗅ぐと、震災後の風景を思い出し、心が沈んでしまうといったことがあって、そこから記憶と香りとの密接な結びつきのことを意識するようになりました。
苦しい時期にそっと寄り添った香りが、時を経て辛さを生々しく思い出させる感覚とは何なのだろうかと感じました。
アロマという分野が想像よりずっと奥深い、人の生理的な部分に思いもよらぬ影響を及ぼすような世界なのだと知ることになる経験でした。
香りの働きが不思議に感じられ、その世界を掘り下げようと思うようになったのです。
看護の仕事をしながら、三年ほどの時間をかけて勉強していくつかの資格を取得しました。
ただ看護師という本職がありますし、本格的にはじめるのは退職してからだと考えていたのですが、私がアロマの勉強をしていると聞いた知合いからどうしてもという要望がありまして、求めがあるのにお断りすることもないと思い、ごく自然な形で始めるようになりました。
それだから「始める」にあたって特別な意気込みがあって立ち上がったということとは少し違うのですが、どうせやるのだったらしっかりやりたい、趣味でやっているというのではお客様に失礼だと思って、SNSなどを通して周知も行いながら活動につなげていきました。パソコンで「潮来 アロマ」と検索するとだいたい1番上に出てきます(笑)
自然そのままの木の香りを慈しむこと。素材を大切に活動される人だからこそ、その素材自体に触れる時間をじっくりともうける。
木の質感を活かしたどこか愛らしいものたち。木々の息遣いがそこに感じられるようです。
一番大切にしていることはなんですか?
アロマは天然の木々や葉っぱなどを素材にして作られる、自然の産物です。
日本は先進国の中でも国土に占める森林の割合がとても高く、それだけ自然が豊かな国なのですが、まちなかに暮らす人にとってはそれが忘れられているのではないかと思うことはしばしばあって、そのことを伝えるために活動しているという思いがあります。
北欧にも木々にあふれた国々は確かにあるのですが、四季があり、南北にわたって広がっているという日本の土地のあり方を反映するように、この国の樹木は多岐にわたっています。
それは間違いなく日本の宝であり、多くの方にもっと触れてほしいのです。
例えば森林浴は心洗われる時間を、自然の素晴らしさへの目覚めをいつでも与えてくれます。
どこか息苦しさを覚えている時であっても、森林の中に身を置き呼吸するだけで心持ちが楽になると、私自身実感・体感しています。
だからといって、必ずしも誰もが気軽に森林浴できるわけではないはずです。
すぐ行ける場所に森林がなければそれだけでもうどこか遠いものと感じてしまうでしょう。
都心や街中に暮らしているなど、自然との接点の薄い方に、アロマを通して息継ぎしていただき、森林浴に近い感覚を味わってもらいたいです。
アロマというやり方を通して、自宅にいながらにして森林浴に近い感覚で包まれてほしい。
そしてそれが実際の自然に目を向けるきっかけにもなってほしいと思っています。
ただアロマは女性的で、感覚的で、というイメージが広まりすぎてしまっていて、どこか自分とは関わりのないものととらえてしまっている人も多くいます。
例えば私自身はラベンダーの香りを非常に心地よいと感じるのですが、男性やこどもやお年を召した方など案外あの香りを快く思わない方がいるのです。
アロマの敷居を低くしたいとは常に思っていて、けれど生理的な部分についてはどうにも動かしがたいというのもまた事実です。
ですがラベンダーの香りを苦手だと感じる人であっても、絶対にその人に合った香りはあるはずで、出会いに恵まれないことからアロマ全体を遠ざけてしまってはもったいないと感じていました。
そんな思いを抱いていた時、国産アロマの世界に出会ったのです。
ひのきや杉やもみなど、私自身の触れてみた印象としてどこか懐かしい香りたちがそこにはあって、これだったら広く様々な方に親しんでもらえるかもしれないと心から感じられる匂いでした。
国産というところにも思いがあって、国産の草木だからこそ日本人の性に合うのだと思うのです。土地に生えるものこそ、その土地の人に自然と受け入れられる、その土地の人に合ったものなのだと思います。
海外のアロマとなるとどのような人の手になるものなのか、見えにくい部分がどうしても出てきてしまうでしょう。
その点実際に足を運び、アロマ作りに関わられている方と言葉を交わすことのできるオープンなyuicaのあり方にはやはりなんといっても安心感がありますし、だからこそ心から紹介できるのです。
国産アロマの世界を人にお伝えしたいという思いが今のわたしを動かしています。
今の情報化社会の中では時に誤りが本当のことのように飛び交い、ヴァーチャルリアリティーといった本当とつくられたものの境界を忘れさせるような世界も急成長しています。
けれどそんな時代だからこそ皆様には天然の素材を用いた心から信頼できるものに触れてほしいと思うのです。
なので自分が試していいと思ったものを誠実にお客様におつなぎすることをしています。
それがひいては自然のもつ魅力への気づきを提供することにもなればいいです。せわしない時代の中で脳が疲れてしまっている人にとっての癒しになってくれればと思います。
今後の目標を教えてください
現在は看護師をしていますが、その中でも介護の問題は非常に身近に感じていて、いずれはケアマネージャーの資格を取って幅広く対応できる事業所を立ち上げたいと思っています。アロアセラピスト兼、看護師兼、ケアマネージャーのいる事業所って、ハード面もソフト面もしっかりフォローしてくれる印象だと思いませんか?
介護される側にも、介護する側にも配慮できる、みんなが元気になる地域を思い描いています。
被災地でのボランティアに携わっていた時のことですが、私がハンドマッサージをしていると、言葉を一言も発さないままに涙を流す方がいました。
私も同じように何も言うことができないまま、時間を共有しました。アロマが嗅覚を通して心にまで効くことが身にしみてわかった体験となりました。
人がつらいことは外からだけではわからないことで、時に言葉にもならないことなのかもしれませんが、それがアロマという一つの働きかけ方でほぐれるならば、ささやかではあっても救われたような気持ちになってもらえるかもしれません。
アロマは感情に直にはたらきかけることのできるものですし、言葉を通してではむずかしいことでも香りを通してであれば響くということがあります。
新聞やニュース番組などで介護疲れから来る悲しい事件の話を耳にすることはよくあります。
私自身も訪問看護で会話の乏しい生活を送られているお家や介護疲れの強いお家にうかがうことはあります。そんな時にはなるべく笑顔になってもらえるようにと楽しい話題や明るい対応を心がけているのですが、アロマという方法で働きかけたならばまた違った反応を返してもらえるのかもしれないとも思っています。
今後も、年齢や職業、性別など問わず、ストレスを感じている人が森のチカラで心も体も元気になれるようなお手伝いが出来たらうれしいです。森林浴セラピーの資格を今後とる予定です。日本の古くからある良いものを、今の便利な世の中で新たなカタチとして生かしていけたらと思っています。
アピールポイント
どこか心地よい香りだから好き、ということはもちろんあるけれど、やはりその香りのことをじっくり知っていけば自分を含めた色々のことを見つめなおせるのかもしれない。
アロマはそうした問いにしっかりと答えを与えてくれる世界で、私たちの住む世界を育む自然への理解をも深めてくれる。
それは堀内さんの話を聞く中で気付かされたことだ。
木の肌触りというところをまるきり離れてしまえば、それは本来の姿を忘れたアロマになってしまう。
素材に対して繊細で、誠実な堀内さんのあり方から多くのことを考える。
避けがたくやってくることとどう向き合えばいいのか。それは最終的には人それぞれのやり方でもって折り合いをつけていく種類のことなのかもしれない。それでも何らかの形での支えがあったならば、向き合うにあたってどれだけ心強いだろう。もちろんどうやって働きかけるのが効果的かというところはまたひとりひとりによる部分が大きいのだろうけれど、五感に訴えかけるような方法で、寄り添うようなあり方で、つらいことやしんどいことに対する人への助けであろうとする姿勢を堀内さんのお話から感じた。